y o m u : n e l

ヨムヨムエブリデイ

僕の好きな文庫本(5)

f:id:yomunel:20210415083041j:plain
太宰治『女生徒』角川文庫

カバー・安西水丸 解説・磯田光一小山清

太宰治に夢中になったのは、おそらく中学生のころで、黒い背表紙の新潮文庫をこつこつ集めては、読んでいった。もっと後になって、ちくま文庫の『太宰治全集』を揃えた。この角川文庫の『女生徒』は、女性の独白体形式による作品ばかりを選んで編集されたもので、好きな話が多く、よく読み返した。おじさんによる少女視点がキモい!などということは当時の自分は考えもしなかったのではないか。この文庫は、定期的に、カバーをリニューアルしながら売り続けられているが、たまたま買ったときに付いていたのが安西水丸バージョンだった。とてもいいカバー。
おやすみなさい。あたし、東京の、どこにいるか、ごぞんじですか?

鰻と灯台

先週は寒の戻りがあったが、自分には寒が戻っているぐらいが快適だ。歓送迎会が中止になった代わりに、ボスが出前を振舞ってくれる日なので朝から楽しみにしていた。いつも出前のメニューでもめて、誰かが妥協することになるのだが、あまりにもめるので、今回は鰻重派と肉派の選択肢が設けられた。もちろん鰻重を選ぶ。鰻はやわらかく、というか鰻の形をした液体だ。腹がくちくなり、午後眠くてたまらず、上目蓋と下目蓋の間にエアマッチ棒でつっかえ棒をするという古典的な手法で耐える。

先週急遽休日出勤をしたので、水木曜と連休をもらう。鰻を食べ、しかも明日からは連休、いい気分で帰路に就く。こんな日は本を買って帰りたいなあと、ふらふら本屋に吸い込まれる。

夕飯を軽く済ませ、『大豆田とわ子と三人の元夫』を見る。『俺の家の話』が終わった次の楽しみはこれだ。楽しみなドラマがあると一週間に張りがでる。坂元裕二って、靴の中に入った小さな石ころとか、外れる網戸とか、床に散乱するパスタとか、切れにくい醤油のパックとか、日々の細かい出来事をノートかなんかにびっしり記録してるんだろうな。長嶋有の細かさにちょっと似ている。市川実日子石橋静河の出演がうれしい。

不動まゆう『愛しの灯台100』(書肆侃侃房)を読む。昔から灯台に住んでみたいという夢があり、ここ住みたい!と思いながらページを繰る。空調設備があり、小さなキッチンと簡易ベッドが付いていれば文句ない。朝起きたら目の前は海。川の水門の上にある小屋みたいな所にも住んでみたい。散歩中、同行の友人にあの上の小屋に住んでみたいよねーと言ったことがあるが、一度も賛同を得たことがない。

新年度

新年度の初週はバタバタだった。いろいろな事が改定されるのだが、現場のことなんて全然知らない人が机上で考えた非効率なシステムに振り回されイヤになる。疲労困憊。やっと明日休み。

朝日新聞の書評委員の交代のお知らせが載っている。女性委員を増やしてやったぜとやたらと強調している。朝日の読書欄で楽しみなのは「文庫この新刊!」のコーナーで、これまでの山田航、堀部篤史、辛島デイヴィッドのバランスがよくて、特に山田航氏の選ぶ文庫にはずいぶんそそられた。文庫だと気軽に買えるし。今回、杉江松恋を含む4氏が退任して、新しく小澤英実、村上貴史、新井見枝香、稲泉連が加わるとある。新井さん楽しみだな。辻山良雄、堀部篤史に続く書店員枠かな。

ノマド 漂流する高齢労働者たち』(春秋社)を読んだ。田中邦衛は「食べる前にのむ!」だが、私は「観る前に読む!」派だ。この間はあわてて『あのこは貴族』を読んだ。しかしいちばん危険なのは「読む前に萎える!」こと。読む気まんまんの本も、帯の文句が気に入らないとか、帯を書いている人が嫌いとか、読む時期を逃したとか、ほんのちょっとしたことですぐ萎える。ちらっと目に入ったアマゾンレビューがけちょんけちょんで、影響されてはいけないと思うも、そんなにつまらないのかーというのがずっと頭の隅っこにあって、結局萎える。萎え萎えの嵐。桜は散り、萎えた本は通り過ぎてゆく。

僕の好きな文庫本(4)

f:id:yomunel:20210402075604j:plain
安西水丸『アマリリス新潮文庫

カバー・安西水丸 解説・清原康正

ムスカリからのアマリリス。昔は、安西水丸といったら、「村上春樹の本のイラストを描く人」という認識しかなかったが、純粋にそのエッセイや小説を愛読するようになったのはいつ頃からだろう。最初の『村上朝日堂』の巻末に、文・安西水丸、画・村上春樹と立場逆転のコラムが付いていたが、それが初めてだったかもしれない。そしてこの『アマリリス』が著者初の小説集。エロくて、エモくて、ちょっとエグい、男の3E小説。90年代に刊行された小説『手のひらのトークン』『冬の電車』『十五歳のボート』『荒れた海辺』『草のなかの線路』『丘の上』などはどれも淡く印象に残っている。
『アマリリス』の担当編集者だった方の追悼文「水丸さん逝く | honya.jp」もよかった。

ムスカリ

年度末ギリギリに午後有休を取る。というか、取得「させていただく」。
退勤後、銀行のATMへ。何台かある機械のうちの一台の前に70代ぐらいの老夫婦がいて、機械を操作している妻の横に監視するように立っている夫が「そうじゃないだろ、バカが、だからお前はダメなんだ」と言い続けている。妻は萎縮し、ますます操作がうまくいかない。月末だからどんどん客が来て長蛇の列。夫が「何やってんだ、このバカが!」と怒鳴り続けていたが、結局その機械が使用中止になってしまった。はぁ、やっぱりね。自分は他の機械で無事出金し店を出たが、なんかイヤなものを見ちゃったなーとずっと気分が悪かった。「ご自分がおやりになったらいかがですか?」と言いたかった(言えない)。

桜は散り始めている。お昼は、天丼を食べる。その後、ぶらぶら本屋や無印で買物。「暮しの手帖」の目利きの本屋さんに聞いてみたに北村さんが登場していた。ほんの数行の近況報告欄に「最近、岡田睦の小説を読んで、ムスカリの鉢植えを買いました」とあり、ふふ、北村さんらしくていいなあと思う。

ちょっと疲れたので、コーヒーとチーズケーキで休憩しながら読書。藤原無雨『水と礫』を読み終える。甲一さ~ん。先日読んだ温又柔『魯肉飯のさえずり』(雪穂さ~ん、桃嘉~)、西崎憲『ヘディングはおもに頭で』(微熱少年のおんく~ん)もとてもよかった。ものまね番組の審査員のように、そっくりでも全然似ていなくてもとにかく10点を付ける人と思われるかもしれないが、ほんと読む本読む本どれもいいんですよ。10点10点10点10点!

夜、ハシビロコウが表紙の岡田睦の本を読み返していたら、自分もムスカリを欲しくなってしまった。「これの世話、手がかかりますか」「ううン、一日置きに水を遣るだけでいいの。下にトレイを敷いて」