3冊の本棚

秋晴れ。朝晩冷える。夏、Tシャツに短パンで『君は永遠にそいつらより若い』の予告編を見ていると、出てくる人たちがやたら厚着(コートにマフラーぐるぐる巻きに耳あて付きのニット帽など)で、いいなぁ、早く冬にならないかなと思っていたら、いきなり寒くなり衣替えした。
近頃、クイックルワイパー(ドライタイプ)の滑りがよくなった。湿気の多い梅雨から夏にかけては、粘ついて引っかかる嫌~な感じがあったのが、いまはフローリングの上を気持ちよくスルッスル滑ってくれる。手で押さなくても、ワイパー部分が自ら進んでいく感じで、クイックルワイパーがルンバ化したようだ。

5月頃、高齢者のコロナワクチン接種が始まった際、たまたま知り合った86歳の老婦人が電話が通じなくて予約ができないと困っていた。知り合いはみんな同居の子供や孫がネットから予約をしてくれるみたいだけど、自分は一人暮らしだから、とひどく落ち込んでいたので、私がやってみましょうか?と接種券番号とパスワードを聞いてアクセスすると、あっさり予約が取れてすごく喜んでくれた。それ以来、顔見知りになり、今日久しぶりに会ったら、とらやの羊羹5本セットをくれた(1620円)。押し問答の末、あまり固辞するのもなーと素直にいただく。羊羹の箱の下に帯封付きの札束はなかったが(ドクターXの見過ぎ)。もうすぐ3回目の接種があるのでそん時もヨロピク!てことなのかも。

明日は代休なので残業して帰る。ご飯を作る気力がなかったのでパックの寿司を買う。デザートは羊羹。月が明るいなと思ったら満月。酒井順子『月に3冊、読んでみる?』を読んでみる。東京新聞の「3冊の本棚」が好きだ。平田俊子さんのとか。「3冊」がいい。1冊じゃ物足りない。

僕の好きな文庫本(12)

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石田千『屋上がえり』(ちくま文庫

カバーデザイン・平野甲賀 解説・大竹聡

暑すぎず、寒すぎず、気持ちのよい風が吹き抜ける屋上日和。知り合いの住んでいるアパートは4階建てで、屋上のような広いテラスが付いている。初夏や初秋に唐揚げやサンドイッチやビールを買いこんで、町を眺めながら過ごすひと時が楽しみだ。換気も不要。今まで登った最高の(物理的に)屋上は、渋谷スクランブルスクエアの渋谷スカイだが、入場料が高いので行ったのは1度きり。昭和感の漂う、すこし寂れた感じの屋上が好きだ。「秘密の森」でペ・ドゥナが住んでいたような屋上部屋(韓国ドラマにはよく屋上部屋が登場する)に住んでみたいと思うけれども、夏は暑いし冬は寒くて大変そう。あと、思い出すのは西武池袋屋上の「かるかや」のうどん。

この本は、「ちくま」に連載された屋上訪問記をまとめたもの。屋上好きにはたまらない一冊。デパート、新聞社、大学、博物館などの屋上。なかでも、紀伊國屋ビルの屋上の屋上(ワンルームマンションふた部屋ぶんぐらいで柵がない)から、腹ばいになって真下を覗くところなど、読んでいるこちらの足まですくんでしまう。著者は、冬の空がひときわだったと書いている。ザ・平野甲賀なデザインのカバーは、片岡義男の『物のかたちのバラッド』と並べるといとこ同士ぐらいの関係に見える。

文章がうまい人

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10月の晴れた日にはいつも、梶井基次郎「太郎と街」の冒頭「秋は洗ひたての敷布(シーツ)の樣に快かつた。」が頭に浮かぶのだけれども、台風が空気をきれいにしてくれたのか、今朝の空はまさに洗いたてのように濃いブルー。と思っていたらやたら暑くて午後に雨。

土曜日の通勤は電車が空いてていい。文庫で安岡章太郎を再読。村上春樹の51 BOOK GUIDEに、戦後の日本の小説家の中でいちばん文章がうまい人、最初に「ガラスの靴」を読んだときそのうまさに驚愕した、と紹介されていたので、どれどれと鞄に入れてきた。これは『若い読者のための短編小説案内』にも取りあげられていた。

「これ、う、うまいんですかね?」と思う。自分は文章のうまさというのがよくわからない。いや、何かを読んでいて、うまいなあと思うことはあるのだが、それはたぶん自分の好みに合っているだけで、一般的にうまい文章かどうかわからない。名文と評判のものを読んでもピンとこないことが多いし、悪文に強烈に惹かれることもある。自分が好きなんだからいいじゃない、文句ある?と謎の開き直り。「戦後の日本の小説家の中でいちばん文章がうまい人」といわれて読んでいると、ああ、これが戦後の日本の小説家の中でいちばん文章がうまい人の文章なんだという気が、だんだん、してきて、だんだん、眠くなる。

秋をけりけり

朝から雨。夜やんで星が見える。10月初日。緊急事態宣言が解除されてもまだ何も変わりはない。帰りに「BRUTUS村上春樹特集の「読む。」編を買う。こういうのやはり買っちゃう。特に上巻の「読む。」編を楽しみにいていた。
前は、書店で雑誌を一冊と文庫を一冊セットで買うのが好きだった。文庫の新刊コーナーを眺めて一冊選び、雑誌と一緒に(合わせて千円ちょいくらい)レジに持っていくと、紺色の袋に入れてくれて、それをぷらぷら提げて帰るのが仕事終わりのささやかな楽しみだった。まだレジ袋が無条件に提供されていた頃。旧「クウネル」のような薄い雑誌と、これまた薄い(当時の)新刊文庫、堀江敏幸の『雪沼とその周辺』だったり『いつか王子駅で』だったりの組み合わせは最強だなと思っていた。雑誌をあまり買わなくなり、その習慣はいつの間にかなくなってしまう。今日は「BRUTUS」と一緒にPR誌を何冊かもらう。さっそくぱらぱら。村上春樹の私的読書案内。51冊のブックガイドが興味深く、読み応えがある。

別の人

9月最終日。23日の代休で休み。曇り。台風が接近中で、上陸はしないようだが今夜から明日にかけて風雨の予報。休みが明日だったらよかったのに。疲労が蓄積していて9時頃やっと起きる。ホットサンドとコーヒーの朝食を摂り、洗濯などを済ませ、食料は昨夜たっぷり買って帰ったし、あとは本読んだり、見逃し配信や動画を見たりのバラ色の休日。今日は誰ともしゃべらなくていい。

諸隈元『人生ミスっても自殺しないで、旅』(晶文社)を読む。文章がまわりくどくて、めんどくさくて読みにくいし、美女だ、バスタブだ、自慰だっていちいちうるさいし、隙があれば登場するヴィトゲンシュタインについて知識も興味もないけれど、なぜかスルスルとページが進み、読み終えた時には自分も一緒に旅も終えたような気分だった(疲れたー)。めんどくささの質が自分と似ているからかもしれない。この本、ハンディなサイズのわりに424ページもあるのに驚いたが、本文用紙の手触りがトゥルトゥルで、絲山秋子の『御社のチャラ男』ぽいぞと思ったら、やはりブックデザイン祖父江慎根本匠(コズフィッシュ)だ。その直後に読んだ田中真知『旅立つには最高の日』(三省堂)がものすごく正統派という感じがした。
次に読んだのがカン・ファギル『別の人』(小山内園子訳、エトセトラブックス)。性暴力をテーマに描かれていて、つらさと、苦しさと、痛さと、しんどさのナイアガラや~みたいな内容だが、ページを繰るのをやめられず一気に読む。つれえな。でもいま読めてよかった。

夜、ずっと見逃していた韓国映画の『The Witch/魔女』を見る。面白かった。
いつの間にか、日が暮れるのがずいぶん早くなっている。