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ヨムヨムエブリデイ

僕の好きな文庫本(2)

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赤瀬川原平『ゼロ発信』中公文庫

カバーデザイン・南伸坊 カバーイラスト・赤瀬川原平 解説もどき・村松友視

ザ・キング・オブ・新聞小説新聞小説が書籍化されると、たいてい挿画がカットされ、新聞掲載紙面とは違う体裁になってしまう。長嶋有の『ねたあとに』などは、高野文子の挿画とともに少しずつ読みたかったなあと思うのだが、それはリアルタイムで毎日こつこつ追いかけていた者だけの特権なのだ。『ゼロ発信』はいつでも、毎日、新聞をめくっているような気分で読める。日記のような小説のような文章からしみ出てくる原平エキスをちゅるちゅる吸って、楽しい。

僕の好きな文庫本(1)

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黒川創『明るい夜』文春文庫

デザイン・平野甲賀 イラスト・北沢街子 解説・藤本和子

今、春陽堂書店から初期の作品集が復刊されている黒川創の本のなかで一番好きな小説。読んだ時期がよかったのか、その時の自分に悲しいほどしっくりきて大切な本となった。旅行鞄に入れて京都を旅した。


昨日の嵐が嘘のように晴れる。洗濯物を干したあと、ベランダでコーヒー片手に青空を見上げながら、ぼーっとしているときにふと、好きな文庫のことをブログに書いてみようかなと思いつく。自分の本棚にささっている、特に珍しくもない大好きな文庫について。すぐに飽きてやめちゃうかもしれないが、思い立ったが吉日で、さっそく始めてしまった。
この『明るい夜』のエピグラフに、

何事にも始まりというものがなければならず、その始まりはもっと前からあった何かとつながっておらねばならん。  
サンチョ・パンサ(ただし、メアリー・シェリーの記憶による)

とあるのだが、まさに一冊目の文庫本にぴったりではないですか。気が向いたときにぼちぼち更新していこうと(今は)思っています。

今年も春の丹まつり

もう3月中旬で、すっかり春っぽくなってきて残念なのは、冬物のコートを着られなくなったこと。防寒着という用途以上に、文庫本入れ(ポケット)として非常に重宝していたから。これからはカバンからわざわざ本を取り出して読んだ後、再びカバンにしまう手間がふえることになる。リュックのときは、よりめんどくさい。それで、名残惜しさを込めて今年の冬のコートにベストマッチした文庫本を選んでみた。今年の私のコート本大賞は、小山田浩子『庭』(新潮文庫)、でした。カバーも冬っぽくてよかった。帯文津村記久子、解説吉田知子、いい。

ここのとこ荒川洋治『文学は実学である』(みすず書房)をゆるゆる読んでいた。1992年から2020年まで28年間に発表されたエッセイより86編を精選、さらにボーナストラックとして単行本未収録の近作8編が付く。旧作はほぼ読んでいるのでずっと読もうかどうしようかと迷いながらいざ手に取って読み始めたら、やっぱりよくて、荒川洋治いいなあいいなあとニコニコしつつ最後まで。クリームドーナツの話なんてすごく短いのだけれど大好き。そして帰りに、この本で紹介されていた大岡信 谷川俊太郎編『声でたのしむ 美しい日本の詩』(岩波文庫)を買ってしまう。こういう文庫こそコート本にうってつけなのだけど。

次は小沼丹『ミス・ダニエルズの追想』(幻戯書房)をゆるゆると読む。全集未収録随筆70篇収録。カバーの色が春らしい。今年も春の丹まつり。

吟味しない

晴れ。まだ風が強い。午後半休。今月で今年度の有休が流れてしまうので、半休でも取れそうなところにはドシドシ入れていく。1時半ごろ退勤。ランチタイムに間に合い、本日のランチ(チキンカツとエビフライ)を頼む。おいしい。その後、店を移動してコーヒー休憩。内澤さんが言及していたストーカー小説、畑野智美『消えない月』(角川文庫)を読む。帯に「怖いのに、止まらない。最恐ストーカー小説」とある通り一気に読了。はー、やるせないわあ。これ親本は新潮社なのに角川文庫なんだ。

その後、図書館から借りてきた、菊池治男『開高健は何をどう読み血肉としたか』(河出書房新社)、片山夏子『ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録』(朝日新聞出版)、アンナ・バーンズ『ミルクマン』(河出書房新社)、椎名誠『遺言未満、』(集英社)などをパラパラする。楽しい時間。新刊書店で本を買う時は、財布からお金が出ていくので、どうしても吟味に吟味を重ねる作業が加わる。自分の嗜好が強烈に反映される。そりゃあ金に糸目をつけず、ガンガン買うのがベストなのだろうけれども、なかなかそうはいかない。図書館だと、ちょっと気になるくらいでも、腰が抜けそうに高い本でも気楽に手に取って読める。大富豪の気分。この「吟味しない」自由さ、というか風通しの良さは素晴らしいと思う。「吟味する」ってすごい楽しいと同時に苦しいことでもあるから。それが身銭を切るということなのだろう。古本屋の均一本の吟味度は10%ぐらい。

日が長くなった。帰って明るいうちにひとっ風呂浴びて、一人鍋を楽しむ。〆は雑炊。食後に桜餅。

あのふたり様子が変

今週明けは、暖かいを通り越して汗ばむ陽気だったが、また冬に逆戻り。仕事終わり、夜の空気が冷たく澄んでいる。満月がきれい。スノームーンとか言ってた。いろんな名前があるもんだ。明日が休みなので、ゆったりした気分で空を見ながら、ぶらぶら歩いて帰る。赤く点滅する航空障害灯と満月のセット、ずーっと見ていられる。

コートのポケットには、筒井康隆『ヨッパ谷への降下 自選ファンタジー傑作集』(新潮文庫)。
瀧井朝世編『ほんのよもやま話 作家対談集』(文藝春秋)の藤野可織&松田青子の回で、筒井康隆の短編「あのふたり様子が変」について「死ぬほど大好き!」「私も死ぬほど大好き!」と意気投合していて、このお二人が死ぬほど大好きってどんな話なんだと興味津々だったが、この短編、たしか昔読んだことがある。でも気持ちいいほど覚えていない。で、これが収録されている『最後の伝令』(新潮文庫)を本棚に探したが見つからず、代わりに『ヨッパ谷への降下 自選ファンタジー傑作集』にも収録されていたので、こちらを読むことにした。下ネタ満載の「薬菜飯店」、「エロチック街道」、「九死虫」、「秒読み」、「あのふたり様子が変」、「ヨッパ谷への降下」、筒井康隆の短編を読むのは久しぶりで、ちょっとした時間にコートのポケットから取り出して読み継ぐのがめちゃんこ楽しかった。

そんなところにタイムリーというか、「波」3月号の特集:筒井康隆×松浦寿輝の往復書簡を興味深く読む。松浦寿輝『わたしが行ったさびしい町』と黒川創『ウィーン近郊』を読みたいな。PR誌の趣旨通り、がっつりPRされまくってしまった。