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ヨムヨムエブリデイ

風にゆれるスピン

10月最後の日。今月いちにち余っていた代休をギリギリ駆け込みでもらう。アラームに起こされず、ぎゅうぎゅう満員に違いない電車の音を聞きながらいつまでも布団の中でうとうとしていられる幸福。夏の暑さに予想以上に身体がダメージを受けていたみたいで(しょっちゅう蕁麻疹が出てた)、快適な気候の10月の1ヶ月間をかけて、ゆるやかに回復してきた。

ベランダにアウトドアチェアを出してコーヒーとパンを食べながら、昨日の帰りに買ってきた小津夜景『いつかたこぶねになる日』(新潮文庫)を読む。これ3年前に出て話題になった際、表紙に「漢詩の手帖」とあるのを見て、ムリムリムリムリと思ったのだった。昔から、もうとにかく漢文や古文や古典が苦手で、そのせいか歴史もダメで、歴史小説や時代小説も読めない。大河ドラマも人物関係がよくわからない。嫌いな食べ物が喉を通っていかないように、脳の入口からまったく入ってこないのだ。それで理系を専攻したくらい。
でも、この文庫の佇まいがよかったので、あ、もしかしたら読めるかもと思って買ってきた。文庫本はこういうところが気軽でいい。ちくま文庫河出文庫や中公文庫などマニアックで好きだけれども、やはり新潮文庫を買うときが一番うれしいかな。子どもの頃からずっと読んでるので、殺人犯は現場に戻るような感じ。スピンが風にゆらゆら吹かれ、手の甲を撫でるのでくすぐったかった。ゆーっくり読んでいる。

この文庫本の元の本は素粒社から出版された。素粒社はまだ設立されて3年程だが、昨年読んでめちゃくちゃ好きだった上田信治の『成分表』や、今年読んでめちゃくちゃ良かった古賀及子の『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』や、他にも『欧米の隅々 市河晴子紀行文集』とかもあって素晴らしい。