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ヨムヨムエブリデイ

翼の王国

先週だったかもっと前か、夕焼けが特別赤くてきれいな日があった。夕暮れ時の電車に揺られていて文庫本から目を上げると、黄色っぽくて弱々しい光が車窓から斜めに差し込んでいて、

ハムのごとき秋の夕日はぴらぴらと電車の窓にスライスされる(杉﨑恒夫)

まさにそんな感じだった。今は帰る時間にはもう真っ暗で、車窓からは、ビルに灯るたくさんの明かりが見える。今日も疲れたのでスーパーでパック寿司を買って帰る。近くの小さな書店をちょこっと覗くと、文庫新刊コーナーに吉田修一『素晴らしき世界〜もう一度旅へ』(集英社文庫)が並んでいた。
15年にわたり続いたANA機内誌「翼の王国」連載の人気エッセイ堂々の完結とのことだ。終わっちゃったんだ。最初はショートストーリーだったのがエッセイに変わり、『あの空の下で』『空の冒険』『作家と一日』『泣きたくなるような青空』『最後に手にしたいもの』と続き、特にどうと言うことはないのだけれども、すいすい気持ちよく読めるので愛読してきた。ここまでは一旦、木楽舎から単行本で出てから集英社文庫に入るという流れだった。最後の2冊『ぼくたちがコロナを知らなかったころ』(表紙が氏の愛猫の金ちゃん銀ちゃん!)と『素晴らしき世界〜もう一度旅へ』はいきなり文庫化。「翼の王国」の連載が2021年3月にすでに終わってるのでさっさと文庫にしちゃいましょうということかもしれない。ありがたいです。

10年ぐらい前までは、わりと飛行機に乗る機会があったので、「翼の王国」と「SKYWARD」の二大機内誌を読むのが楽しみだった。旅に出る友人にもらってきてと頼んだりも。今は「翼の王国」はWebでも読めるが、やはり揺れる機上で前の座席のポケットに刺さっている機内誌を引っ張り出して熟読してからカタログにも目を通すみたいなのが楽しかったな。以前の上司が浅田次郎ファンで、「SKYWARD」の連載「つばさよつばさ」が単行本になるのが楽しみなんだと言ってた。「つばさよつばさ」はまだ続いているみたい。