y o m u : n e l

ヨムヨムエブリデイ

読んで、呼ぶ

すっかり春めいてきた。名残惜しく、まだ冬のカケラがちょっとでも残っているうちにと、鍋ぐつぐつ系料理を駆け込みで楽しんでいる。日曜日に仕込んだおでんの残りを帰ってからあっためて食べる。味がしみしみでおいしい。たぶん今シーズンラストおでん。ラスト〇〇って口にしただけでスペシャル感が出る。食後に同僚からもらったポンカンを食べる。指先からいつまでも柑橘系のよい匂いが漂う。

ライ麦畑のホールデン少年が、僕がノックアウトされる本は、読み終わったときに、それを書いた作家が僕の大親友で、いつでも好きなときに電話をかけて話せるような感じだといいのにと思わせてくれるものなんだ、と言っている。その後電話をかけたい作家として、イサク・ディネセン、リング・ラードナー、トマス・ハーディなどを挙げ、『人間の絆』は悪くはなかったけどサマセット・モームに電話をかけたいかというと、そういう気持ちにはなれないんだ、と続ける。

僕の場合はね、ホールデン君のように作家に電話したいとは思わないけど、読み終えたときに、登場人物の名前を無性に呼びたくなっちゃうんだ(←あんた誰?)。『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の時は、ロッキー!グレース!と呼びかけていたし、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』 は、ああピーター!だった。そして河崎秋子『絞め殺しの樹』を読み終えた今、ミサエ~!と太字で叫んでいる。昔のクレヨンしんちゃんみたいに。名前を呼びたいくらい登場人物を身近に感じているということなのかもしれない。