5月のGWの頃にそれまで張りつめていた町の空気が変化したのをよく覚えているが、今日また一段ギアが上がったのを感じた。
ジャック・ロンドン『マーティン・イーデン』(白水社)を読み始める。前にアーヴィング・ストーン『馬に乗った水夫』(早川書房)を読んだので、自伝的小説のほうはもう読まなくてもいっかーと思っていたが、映画の宣伝を見たら、ミーハーの血が騒いでしまった。いま書店に並んでいる本には、ルカ・マリネッリが煙草をくわえている映画の帯が巻かれているが、最初の刊行時の帯の裏には村上春樹のコメントが載っていた。
「残酷なほど力強い本だ。パワフルな絶望。前向きな自滅。」(『遠い太鼓』より)
こうなると、『遠い太鼓』のどこに書かれていたのか確認したくなってしまうのはまあ無理もないことで、『遠い太鼓』の文庫をぱらぱらしていたらp.388にありましたよ。ロンドンに滞在中、『ダンス・ダンス・ダンス』を執筆しながら読んでいる。
ここはすごく暖房のよくきいたアパートで、外ではみんなコートを着ているというのに、中ではTシャツとショート・パンツという格好でも、まだ汗ばむくらいであった。ときどき窓を開けて、アビーロードの上空に頭を突き出して冷やさなくてはならなかった。仕事に疲れると近所の書店で買ってきたジャック・ロンドンの『マーティン・イーデン』を読んだ。残酷なほど力強い本だ。パワフルな絶望。前向きな自滅。天気はいつも悪かった。三日に二日は曇っていたし、しょっちゅうぱらぱらと小雨が降っていた。悪い世界の到来を予告するするような冷たい気の滅入る雨だった。
アビーロードなんかがサラリとでてくるところにちょっとイラっとさせられるが、ロンドンでジャック・ロンドンを読むというのは何かの洒落みたいなものだろうか。
いまのところ、マーティンめっちゃ働いている。働き方改革どころではない。
マーティンには悪いけれど、こちらは明日から三連休。本屋に寄り道して、スーパーで食料を買い込み、気持ちのよい夜風に吹かれて、気分はゆるみきっている。