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ヨムヨムエブリデイ

なかなかたどり着かない

接近中の台風の予報円を見ると紀伊半島沖あたりで冗談みたいな角度で右折していて思わず笑ってしまった。しかし笑いごとではなく、たいしたことがなければいいが。

7月中旬頃、川上未映子の『夏物語』に備えて『乳と卵』を読み返したのにまだ本体にたどり着けていない。奥田英朗の『罪の轍』を読む前に、本田靖春の『誘拐』を読み返しておきたいし、高村薫の新刊『我らが少女A』は楽しみにしている合田刑事シリーズだけど、シリーズ前作の『冷血』を内容が非常に重たそうで読んでいなかったことに気づき、順番通りに読みたいからそっちから読まなければならない。ゴールポストを目指しているのに次から次へとタックルされて前へ進めない状況。でも、全然イヤじゃないです。むしろそれがいい。

そんな状況なのに、今週はひょんなことから、綿矢りさ『生のみ生のままで』を、上下巻一気読み。彩夏と逢衣が、中山可穂『白い薔薇の淵まで』の塁とクーチとちょっと重なった。

あと松田青子のエッセイ集『じゃじゃ馬にさせといて』。海外ドラマや映画ネタをそうそう!わかるわかる!と楽しく読みながらもぐっとくる場面がいくつもある。たとえば、イギリスの田舎町ノリッジに滞在している間「アジア人」として特別視されるのを感じていた筆者はその2週間後訪れたカナダの移民都市トロントでの体験を次のように記す。

 滞在最終日、大型書店に行った。私が探している本を調べてくれた白人の女性店員さんが、「下の階にあるから、このメモを持っていってね」と私を送り出した後、下の階の担当者にインカムで連絡をとっているのが聞こえた。「今から黄色いバッグを持った女性が下りていくからすぐわかると思う」。彼女は私の一番の特徴であるはずの「アジア人」という言葉を使わなかった。使わなくても、下で待っていた男性店員さん(この人も白人だった)は、すぐに私を見つけてくれた。それはとても心地の良い出来事だった。こんなに心地の良いことだとは知らなかった。(p.95) 

アニエス・ヴァルダとのエレベーターでの奇跡も印象深い。