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ヨムヨムエブリデイ

本能

母と二泊三日の温泉旅行に行ってきた。温泉でのんびりしたいという母への少し早い母の日プレゼントのつもり。凍えるような寒さが戻ってきてまさに温泉日和だった。帰省したときに顔を合わせてはいたが、長時間一緒に旅行するのは久しぶりで、知らないうちに、わがまま放題でキレやすくなっているのに驚いた。

父は家のことは一切しない(自分の下着の場所さえも知らない)亭主関白で、途中から父の両親との同居生活も始まった母が苦労するのを子供の頃からずっと見てきた。自分のしたいことを我慢して、自分の気持ちを抑えて家のために身を粉にして尽くしているという感じだった。子供の私は、結婚とは難儀なものじゃのうと思っていた。今回の旅行中、その言動にイラッとしたり、衝突して何度も口論になったりもしたけれど、あの母がもう我慢しなくてもいいステージに移ったんだと思うと、なにか感慨深いものがある。今までの分、もっと自由になればいい。

ただ、同じ料理を頼んだ際、少しでも大きい方、見栄えがいい方を私に食べさせようとするのは、今も変わらないなとちょっと悲しかった。半分コしようと饅頭などを買っても、大きいほうの欠片を必ず私によこす。伊坂幸太郎の『ゴールデンスランバー』で、主人公の青柳君が板チョコを割って大きい方を私にくれる、もっと大雑把でいいのにと恋人の晴子から別れを切りだされる場面を思い出す。これって親が子に少しでもいいものを食べさせたいという本能みたいなものだからどうしようもないのだろうか。母がこういうことを気にしなくなるのは、おそらく耄碌して何もわからなくなったときだろうから、それはそれで悲しいことだと思う。

旅のおとも。田尻久子『みぎわに立って』(里山社)。電車で、旅先の宿で雨音を聞きながら、少しずつ読んだ。よかった。