五月に入ってからもヒートテックを脱げないような肌寒い日が続いていたのに、ここ数日ですっかり初夏の陽気に。朝目が覚めると、手と足が布団の外にだらりんと飛び出している。スースーして気持ちがいい。暑がりの妻が布団から手足を出して眠るのをシジミのようだというのが、向田邦子の小説にあったと思う。外に出ているのはまだ手と足だけだが、これから夏に向けてもっといろんなものが出てくるだろう。
シジミつながりで。
シジミ 石垣りん
夜中に目をさました。
ゆうべ買ったシジミたちが
台所のすみで
口をあけて生きていた。
「夜が明けたら
ドレモコレモ
ミンナクッテヤル」
鬼ババの笑いを
私は笑った。
それから先は
うっすら口をあけて
寝るよりほかに私の夜はなかった。
『SPUR』6月号の特集「大人の本をきちんと読もう」を読んでいたら、津村記久子さんが、石垣りんの『ユーモアの鎖国』から、働くことについてのナイスな引用をしていて読みたくなってしまった。津村さんにはいつも個人的なツボをぐいぐい押される。『ユーモアの鎖国』再読。これと『焔に手をかざして』と『夜の太鼓』のちくま文庫の三冊はいまでも本棚に並んでいる。