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ヨムヨムエブリデイ

ゆっくりと歩いていく

帰りに「ブ」をのぞくと誰かがまとめて処分したのか「ちくま日本文学全集」が105円でたくさん出ていた。持ってなかった島尾敏雄寺田寅彦などを買う。尾崎翠はすでに持っているのにまた買ってしまう。もうこれは何冊でも。一番うれしかったのは中野重治の巻。
松浦弥太郎『本業失格』(集英社文庫)の佐伯誠の解説に、小野十三郎中野重治のために寄せたことばとして次の文章が引用されている。

 彼はこまごまとした家事を少しも面倒臭がらず、まめに動き、赤ん坊の世話もよくし、仕事をしている最中でも、細君にいわれると味噌や豆腐を買いにいくといった風で、つまり、小さなものにも立ち止まり、それをつくづくと眺め、いとおしむ、妻や子に人目もかまわず愛情を傾ける、仕事のために家庭をないがしろにすることなく、ゆっくりと歩いていく、そういったところがあったそうだ。

ゆっくりと歩いていくってなんかよくない? この引用文を読んで一気に中野重治を好きになった。単純だなあ。
ちくまの中野重治集は 「中野の良さが文学的によく現れた秀作がえりすぐって入っているからいまの若い人には入りやすいだろう」と加藤典洋が解説に書いている。「愛しき者へ」という妻宛の手紙(抜粋)がいい。抜粋でない「愛しき者へ」を読みたくなる。