y o m u : n e l

ヨムヨムエブリデイ

親切は技術

スーパーで買物を済ませ、セルフレジで会計しようとしていると、杖をついた高齢の女性がレジの人に紙幣を渡し、代わりにセルフレジをやってくれと頼んでいる。どうやらいつもそのようにしてもらっているようだが、その日は特売日でレジが激込み、店員さんもそれどころじゃないという感じで、放ったらかしにされた杖の女性がセルフレジの前で固まっていた。見かねてセルフレジを手伝い、品物をエコバッグに詰めてあげて「ありがとう」「気をつけて」と言って別れたのだが、今冬に読んだ津村記久子『ふつうの人が小説家として生活していくには』のことをふと思い出してしまった。

「優しいとかは性根がいるけれど、親切は技術だけでできる」「どんな冷たい人間でも技術で親切にはできるやろ」「ケアは技術。だから親切に近いもの。才能ではなくて技術なんだから、誰にでも開かれている」「いい人間になれなくても、いい行動は取れる」といった内容だった。セルフレジを手伝いながら、今、自分は技術で親切にしているのだと思った。心からの優しさからだろうと技術だろうと、困っている人を助けるという行動は変わらない。

コミュニケーション能力に乏しく、社会にあまり適応できない私がずっと仕事を続けていられるのは、技術のおかげだと思っている。仕事内容の技術ではなく、働き方の技術。

今村夏子「とんこつQ&A」の主人公は中華料理屋で接客のバイトをすることになったが、「いらっしゃいませ〜」「お待たせしました」「ありがとうございました」の言葉がでてこず無言で立ち尽くす。しかし「いらっしゃいませ」と書いてあるメモを読めば、するりと「いらっしゃいませ」が飛び出してくることに気づく。そこから客に対応できるように読み上げるメモをどんどん増やして接客をこなしてゆく。これを読んだとき、あ、私と同じことをしてる人がいる!と感激した。私は今でもどこかに電話をしないといけないときは、念入りにシナリオを書いてからでないとだめだ。
これまで技術だけでなんとか乗り切ってきたが、何十年も同じことをやっていると、ちょっとしたアドリブぐらいはきくようになる。