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ヨムヨムエブリデイ

新年度

で、あなたは読んだの?

桜が散り始め、職場の人が入れ替わり、新年度が始まった。重いコートを脱ぐと、文庫本を入れるポケットがなくなるので、いつも春はそれが名残惜しい。石川淳の『狂風記』下巻に巻かれた帯に、大江健三郎の文章が載っている。

 戦後乱世の風がなお吹きあれた時分、ハイティーンの僕を支えたのは、ドスのようにポケットにおさめた、石川淳の小説であった。そこに描かれた、えたいのしれぬ生命力のかたまり、しかも美しい娘と若者の肖像は、燃えるような励ましを、ポケットの主につたえたのだ。(後略)

ドスかあ。でも、無造作にポケットに手をつっこんだとき、文庫本が手に触れるとポケットの主は妙に安心するものだ。今、春物の薄手のステンカラーコートのポケットに無理やり(冬物みたいにスッポリ入らない)ねじ込んでいるのは、長岡弘樹『教場0』(小学館文庫)。読んでいるとドス的な凶器が出てきた。


先日、歯医者に行った際、急患がいるので予約時間を少し過ぎるがよいか?と訊かれた。その後の予定は特になく「ぜんぜんオッケーで~す」と応じると、治療後の会計時、迷惑をかけたお詫びにと歯ブラシと数種類の歯磨きペーストをいただいた。20分ぐらい待っていただけなのにラッキー。その中のひとつ「カムテクト」というペーストを使い始めたところ、あまりの不味さに、口に入れたとたんにオエーッと吐き出してしまった。これ、評判はどうなんだろうと思い、口コミを見てみる。やはりほとんどの人が不味いと言っていて、でも使い続けているとクセになり、リピーターになったという人が意外に多い。ホントかよ。でも捨てるのも忍びなく、試しにオエオエしながら使い続けてみると、3日ぐらいで慣れた。あの、オエーッはどこに行ってしまったのか。むしろ爽快な刺激が心地いいほど。こんなに短期間に鈍感になる力を発揮する自分の体に驚く。