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ヨムヨムエブリデイ

海の仙人

休み。天皇誕生日。何年も前から、祝日がくるたび、何の休みかピンとこなくなっている。
阿部和重『オーガ(ニ)ズム』完走。インターミッションを挟んだりして、2週間弱この本と一緒に過ごした。疲れたけど楽しかった。ラストはラリーさ~ん!と思わず声が出ちゃった。長い小説をちょびちょび読むのっていいもんだと改めて思う。

次はちょっと気楽に読めるものをと北村薫『水 本の小説』(新潮社)を読んだ。次から次へと本のタイトルや作家の固有名詞が現れ、つながっていくのをへえーと感心しながらどんどんページをめくる。前に読んだ川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』(文藝春秋)もこんな感じで映画の話が次から次へとつながっていく蘊蓄エッセイだった。PR誌「波」の編集長の編輯後記もこの路線に寄せているのではないかと思う。
性別で括るのは適切ではないかもしれないが、ブログでも何でも、博覧強記の美学を語るものや、「目利きのオレ」をこれみよがしに前面に出してくるのは男性の書くものに多いように思う。mansplainingという言葉もあるし。もちろん女性にもいるし、たまたま自分のまわりがそうなだけなのかもしれないけれども。

安岡章太郎岩波文庫に入ったんだとか、石垣りんのエッセイが中公文庫にとか、文庫新刊コーナーを冷やかしていたら、河出文庫絲山秋子『海の仙人・雉始雊』が入っているのが目にとまった。懐かしいなあ『海の仙人』。自分の日記の過去ログを見ると、2005年11月19日の日記に「今のところ私の絲山ベストは『海の仙人』だ」と書いている。なのに内容をあまり覚えていない。思い出せるのはファンタジーという神様が出てきて、海辺で、砂がジャリジャリするような話だったくらい。で、今日はこの薄い文庫をポケットに入れて移動していた。読んで驚いたのは、「宝くじが当たったら仕事を辞めてひっそり暮らす」と自分がずっと心の拠り所にしていることは『海の仙人』が原点だったのだということ。内容は忘れても10年以上も影響され続けていたなんて、やはり本ってすごいな。