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ヨムヨムエブリデイ

僕の好きな文庫本(19)

佐藤正午『私の犬まで愛してほしい』(集英社文庫

カバー・ネモトヤスオ

1989年6月25日に刊行された佐藤正午の文庫オリジナルファーストエッセイ集。

今月、岩波現代文庫から佐藤正午のライフワーク的エッセイ『小説家の四季 1988-2002』が刊行された。てっきり2016年の『小説家の四季』がそのまま文庫化されるだけかと思っていたら、これまで書き継がれてきた「小説家の四季」シリーズを全部まとめて、2冊に分けて刊行。第2弾の『小説家の四季 2007-2015』は12月に出るようだ。「BRIGHT」という季刊PR誌への連載から始まった「小説家の四季」は、岩波書店から刊行されたエッセイ集『ありのすさび』と『豚を盗む』に数年分ずつ収められている。これに『象を洗う』を加えた3冊は、桂川潤によるいかす装幀も含めて大好きなシリーズ(この3冊は後に光文社文庫入り)。

そして、本書『私の犬まで愛してほしい』には、「小説家の四季」の最初の1988年分が入っている。佐藤正午のエッセイは、ねちっこくて、くどくて、面倒くさくて、抜群に面白いのだけれども、ファーストエッセイ集のこれは、まだ面倒くささがゆるいというか、発展途上の感じがして初々しい。大学生のころ、野呂邦暢にファンレターを送り、返事を受け取ったあの有名なエッセイが収められている。