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ヨムヨムエブリデイ

僕の好きな文庫本(14)

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星野道夫『アラスカ 光と風』(福音館日曜日文庫)

装丁・桂川

1986年に六興出版より書き下ろしで刊行された初めてのエッセイ集に、1995年新たに書き下ろした一章を加え、福音館日曜日文庫より新装版として刊行された(この本、文庫本サイズではないので反則なのだけど、福音館日曜日文庫というレーベルに入っているので文庫扱いということで)。星野道夫の文庫といったら必ず名前があがる『旅をする木』(文春文庫)も大好きだが、初めてのエッセイ集であるこちらは、初々しくて、星野道夫の原点を感じられるところがいい。寒くなると出してきて、気に入ったところをぽつぽつ拾い読みする。
例えば、キーンと冷たく晴れた日曜日におでんを仕込みながら読むのは、こんなところ。

 この旅には、“Endurance”を含めて何冊かの本を持ってきた。その中に日本の雑誌が一冊あった。この雑誌の中に、何度見ても飽きないページがあった。紀文のおでんの広告ページである。できたてのおでんがぐつぐついいながらそのページから匂いを発していた。人間の想像力というのはたいしたもので、ぼくはほとんどおでんを食べたような気持ちになっていた。 p.198「オーロラを求めて」

オーロラを撮影するために、厳冬期のアラスカ山脈に単独で入り1ヵ月間キャンプしたときのことだ。大変な状況だろうのに、どこかのんきな感じがする。さらに秋のブルックス山脈でキャンプ中、朝起きると初雪が積もっていたときのことをこう記す。

今日は九月三日、一九八一年、冬の第一日目。長く暗い冬が始まるというのに、いつも感じる、この初雪のうれしさはなんだろう。ぼくはコンロに火をつけ、湯を沸かし、いつものようにドリップ式のコーヒーをつくった。どんなに大変な撮影行でも、おいしいコーヒーを飲みたい。テントの中に、朝のコーヒーの匂いがたちこめる。日記に、冬が来たと記した。       p.240「北極への門」