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ヨムヨムエブリデイ

僕の好きな文庫本(12)

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石田千『屋上がえり』(ちくま文庫

カバーデザイン・平野甲賀 解説・大竹聡

暑すぎず、寒すぎず、気持ちのよい風が吹き抜ける屋上日和。知り合いの住んでいるアパートは4階建てで、屋上のような広いテラスが付いている。初夏や初秋に唐揚げやサンドイッチやビールを買いこんで、町を眺めながら過ごすひと時が楽しみだ。換気も不要。今まで登った最高の(物理的に)屋上は、渋谷スクランブルスクエアの渋谷スカイだが、入場料が高いので行ったのは1度きり。昭和感の漂う、すこし寂れた感じの屋上が好きだ。「秘密の森」でペ・ドゥナが住んでいたような屋上部屋(韓国ドラマにはよく屋上部屋が登場する)に住んでみたいと思うけれども、夏は暑いし冬は寒くて大変そう。あと、思い出すのは西武池袋屋上の「かるかや」のうどん。この本にも登場する。刑事ドラマのロケに使われた屋上マップみたいなのもあったらいいな。

この本は、「ちくま」に連載された屋上訪問記をまとめたもの。屋上好きにはたまらない一冊。デパート、新聞社、大学、博物館などの屋上。なかでも、紀伊國屋ビルの屋上の屋上(ワンルームマンションふた部屋ぶんぐらいで柵がない)から、腹ばいになって真下を覗くところなど、読んでいるこちらの足まですくんでしまう。著者は、冬の空がひときわだったと書いている。ザ・平野甲賀なデザインのカバーは、片岡義男の『物のかたちのバラッド』と並べるといとこ同士ぐらいの関係に見える。