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ヨムヨムエブリデイ

僕の好きな文庫本(7)

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レイモンド・カーヴァー『ぼくが電話をかけている場所』(村上春樹訳、中公文庫)

カバー・落田謙一

日本で最初に翻訳出版されたレイモンド・カーヴァーの作品集で、マイ・ファースト・カーヴァーでもある。日本の読者に紹介するために訳者がセレクトして編んだ作品集で、同じ趣旨のものが『夜になると鮭は‥‥』(中公文庫)『ささやかだけれど、役にたつこと』(文庫化していない)と続けて刊行されている。
その後、和田誠デザインによる函入りのチャーミングな全集が出て、さらに時を経て、手軽な新書サイズの村上春樹翻訳ライブラリー(中央公論新社)に収められた。全集となると、中には出来のよくないものもあるので、それを全部訳すのはしんどかったといったようなことを訳者が何かに書いているのを読んだ。
どれか一冊選ぶとしたら、ベリーベスト的な『Carver's Dozen レイモンド・カーヴァー傑作選』(中公文庫)かと思うが、アメリカにこんな素晴らしい短篇小説作家がいるから、みんな読んで!という前のめりの熱が込められた、この最初の一冊がいちばん好きだ。初めて読んだときの衝撃は今でも忘れられない。「出かけるって女たちに言ってくるよ」のラストの石!
歳とともにこちらの感受性も鈍り、何かを読んでこのようなフレッシュな衝撃を受けることはもうなかろうと思っていたが、それがあったんですよ。ルシア・ベルリン、略してルシベル。