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ヨムヨムエブリデイ

噛みあわない会話と、ある過去

もう12月か。びっくり。

 できれば家にいて、右のものを左、上のものを下へ動かしたり、また戻したりするだけの日々を送りたい。それには誰かの機嫌や健康状態、予定などを気にしなくていい、一人っきりの暮らしを手に入れればよかったのかもしれない。 
「里帰り」長島有里枝 新潮12月号(p.380)

そのあとに、子供らがいるのでそういう暮らしは手に入らなかったが、もし手に入っていたらそれはそれで不満だったのではないかと続けている。この長島有里枝の文章に少しつながるような、メイ・サートンの日記と、『天才たちの日課 女性編 自由な彼女たちの必ずしも自由でない日常』(女性編のほうが面白い!)をちびちび読む平和な日曜日。誰かの機嫌や健康状態、予定などに振り回されることもない。

ここらでちょっと小説を読みたいなと、なんとなく辻村深月『噛みあわない会話と、ある過去について』を手に取り読み始める。無意識に漏らした一言が誰かを深く傷つけていたかもしれないということ。読んでいると、嫌な過去が蘇ってくる。「F、私はあなたのことを一生許さないから」Fに対するどす黒い思いがどんどん湧き出てきて今でもはらわたが煮えくり返り、うわあああと叫びたくなるが、反対に自分も知らないうちに誰かに嫌な思いをさせていたかもしれない。窓から冬のやわらかい陽光が射す静かな日曜日を満喫していたはずが、いつの間にか、暗い穴から次から次へと、どくどくどくどく溢れ出てくるどす黒いものを持て余している。誰かの機嫌や健康状態、予定ではなく、本に振り回されている。

気分転換に、食料の買い出しに。赤や黄に色付いた葉が美しい。少し気が早いがコートを着てふらふら歩いていると、『夜の浜辺でひとり』の秀子お嬢様というかキム・ミニのような気分になって(全然違うわ!)ウキウキしてくる。冬は歩くのが楽しい。そして暗い穴に蓋を。