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ヨムヨムエブリデイ

隣の国の人々と出会う

ワイドショー的興味で毎年ノーベル文学賞の発表を楽しみにしているのだが、金色の縁のある白い扉を開けて現れた人が受賞者の発表を始めても、え、今なんつった?誰?誰なの?となるのが例年のことだった。今年はサウスコリアオーサー、ハンカーンというのが聞き取れて、翻訳された著書を何冊も読んで親しんできたから、やったーと喜んだ。芥川賞よりもなぜか親近感がわいた。

今年の春に『別れを告げない』(斎藤真理子訳)が刊行されたあと、いろんな媒体でとにかく絶賛されていて、しかもこういうのをいかにも好みそうな人たちが揃ってきちんと褒め称えていたので、かえって冷めてしまい、まあいつかは読むかもしれないけれど、今でなくてもいいかと先のばしにしていた。8月にたまたま青山ブックセンターの「330人が、この夏おすすめする一冊。」フェアを覗いたら、末井昭さんが『別れを告げない』を選んでいた。何かを読むきっかけは予想もつかないところからやってきて、どういう作用でそうなるのか自分にもわからないのだけれど、『別れを告げない』をようやく手に取ったきっかけは、スウェイさんだった。
夏の真ん中の一番暑い時期に読み始めると、主人公の小説家もソウルの夏の暑さに苦しんでいた。と思ったらすぐ冬になり雪が降る。読後は、痛みと寒さが身体にずっと残っていた。めちゃんこ痛い。「四・三事件」を初めて知った。

斎藤真理子『隣の国の人々と出会う 韓国語と日本語のあいだ』を読んだ。マル(言葉)、クル(文、文字)、ソリ(声)、詩についてなどとても興味深く読む。
「人間には、マルにもクルにも託せないものがあって、ハン・ガンはそのことを知っているからこそ小説を書いているのだと思う。マルとクルの奥にひそんでいるものがたくさんあるからだ。(p.66)」

あがれない双六

先週は散々な一週間だった。10月から仕事に新システムが導入され、てんてこまいで疲労困憊のところに、一昨日の夜、上階からの漏水騒動。夜の9時頃天井の照明あたりからポツポツと水が落ちてきて、洗面所、キッチンの天井からと徐々に激しくなり、ありったけのバケツ&洗面器とありったけのタオルで防戦、明け方まで続いた。管理会社によると、上階の住人の洗濯機の排水溝がつまりオーバーフローしたとのことだ。一睡もできずに迎えた明け方、急に何もかもがどうでもよくなり、漏れてくる(濁った)水を浴びてドロドロの頭や部屋着などおかまいなく30分程眠った。

それまでは、どうにかしようとなんとか頑張るのだけど、あるポイントを越えるともうどうなってもええわ!となってしまう。玉羊羹に針をプチッと刺したみたいに、張りつめた気持ちが一気に開放されるこの瞬間が好きだ。めったに会えないが、玉羊羹の中身の、野蛮で投げやりで荒々しい自分と会ったときは握手したくなる。普段はだいたい、地味にちまちま何かをどうにかしようとしているから。

そんなわけで、集中して本を読めず、短いエッセイが詰まった本ばかり読んでいた。西川美和『ハコウマに乗って』、最相葉月『母の最終講義』、穂村弘『迷子手帳』。いろいろ一段落ついたところで、吉本ばなな『下町サイキック』半分まで読む。ああやっぱり思い煩うことなくのんびり本を読めるのって最高だー。

なかなか消えない

気温が下がるだけでこんなに身体が楽になるなんて。遅番の日なので『虎に翼』の最終回をゆっくり見る。この朝ドラは、脚本家が出しゃばってきて説明しすぎるだの、あらすじしかないだのアンチ意見を目することも多かったが、私は半年間毎日たっぷり楽しませてもらった。とうとう終わっちゃったのかーと、さみしい。トラちゃん半年間ありがとう、さよーならまたいつか! さよーならではなくてトラちゃんはこれからもいつも自分の中にいる。
一番好きだったシーンは、よねさんが齧っていたせんべいをこぼした時、トラちゃんが「ぶちまけたわね」と言ってわちゃわちゃするところ。総集編やダイジェストからは、まっ先に削られるだろうシーンが意外にずっと記憶に残ったりする。朝ドラからのあさイチキョンキョンまで見てから出勤。

この間の「情熱大陸」が北方謙三だった。今って「男である」ことの特別な意味を付与しづらい時代だなって……と話を振られた北方謙三が、「だから何だよ、俺はそういうことを付与する時代に生きてきてそのまま死んでいくんだから今はどうでもいいんだ、時代に迎合してたまるか!」と言い放っていた。
自分の周りの上の世代の男性も同じことを言うので、あーやっぱりなと思った。フェミニズムなんか知らん、セクハラ、パワハラやりたい放題でお咎めなしのいい時代だった、いまさらアップデートなんてちゃんちゃらおかしくてできないしする気もない、先は短いのでこのままうまく逃げきれそうでよかったウッシッシ、あとはひっそり消えるだけ、最近の若い男は萎縮して可哀想だ、昔はほんとによかったよ、とかなんとか、何度聞かされたことか。でもあとは消えるだけと言いながら、なかなか消えないばかりか、言わんでいいことをよく言う。しぶとい。

なんの連休?Season2

今週、車谷長吉癲狂院日乗』(新書館)を読んだ。読み始めは、
「今朝、目が醒めた時、ふとんの中で嫁はんと接吻した。」(p.6)
「朝、ふとんの中で順子ちゃんと足で小突き合い、つつき合い、じゃれ合う。」(p.19)
「朝、ふとんの中で順子ちゃんのお乳を愛撫。温かい。発情せず。」(p.20)
「朝方、私が便所に立った時、順子ちゃんが大きな尻を放り出して寝ていたので、右足の親指で尻の穴をつついたら、物凄い剣幕で怒って、私の足を三度、四度と蹴った。」(p.49)
このような記述が続き、読者サービスなのだろうけどずっとこんなの読まされるんだったら、だりぃなあと思っていたのだが、『赤目四十八瀧心中未遂』が直木賞候補になったぐらいから面白くなり(面白いといっていいのかどうか)、嫌なんだけれど止められなくなる。編集者との確執、友人からの絶交宣言、新潮社vs.文藝春秋など、しかもそれが執拗に繰り返される。問題になっている短編「抜髪」「白黒忌」を読みたくて、収録されている本を図書館から借りてきた。庄野潤三の、不快なことネガティブなことはことごとく排除された、うれしいたのしいおいしいが執拗に繰り返される晩年の夫婦シリーズとは正反対。

今日は連休前で慌ただしく疲労激しく退勤。スーパーで寿司のパックを買って帰る。デザートのアイス、梨も。書店の文庫コーナーで荒川洋治『文学の空気のあるところ』(中公文庫)も買う。文庫版は新たに二篇追加。単行本を読んだとき、(笑)が多い!と思ったのだけ覚えている。好物のパック寿司、文庫本を買い、明日から2連休。いうことなし。

なんの連休?

昨日は、連休を利用して遊びに来た友人と会った。食べて、お茶して、しゃべりまくっていたらあっという間に日が暮れた。別れ際に、行きの新幹線で読み終えてめちゃくちゃ面白かったという永嶋恵美『檜垣澤家の炎上』(新潮文庫)をくれた。分厚い。昔よくやってたな、文庫リレー。懐かしい。

今日はパワーチャージの日。仕事とか外せない用事で一旦家から出さえしたら、その後でいくらでもあちこちふらふらできるのだけれども、何も用事がない休日はそもそも家から一歩も出たくない。午後からカレーを作り、合間に永井玲衣『世界の適切な保存』(講談社)をグイグイ引き込まれつつ読んだ。ここのところ好きなエッセイ集は文芸誌の「群像」がらみのものが多い気がする。

秋から「ベイビーわるきゅーれ」のドラマ版が始まるよ!と何かで目にしてすごく楽しみにしていたのだが、秋ドラマだから10月からと思いこんでいたら、すでに始まっていた。慌てて見逃し配信を見る。間に合ってよかったー。30分間にお約束のパターンを色々盛り込んでくるのでテンポよく見られる。やる気はないが仕事はキッチリこなし、それ以外はひたすらゆるくうだうだしていたい(同感!)ちさまひコンビほんと好き。本田博太郎に一課長の笹川刑事部長がちょっと入ってる。