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ヨムヨムエブリデイ

新しい景色

うさぎジャケで、本年もどうぞよろしく

1月4日仕事始め。はあ、もう始まっちゃった、仕事が。むちゃくちゃ忙しくて、3日間実家でのほほんと過ごした身にはしんどかった。おせちに飽きて、朝買って行った、めんたいフランスとカレーパンを立ったままコーヒーで流し込む。お土産の各地の銘菓が豊富で、それらを息抜きにちょこっと摘まむのがささやかな希望。へろへろで倒れ込むように帰宅した夜は、やはりお土産にもらったバスセンターのカレーをチンしたサトウのごはんにかけて食べる。おいしい。今年のー冊目は、マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『その昔、N市では カシュニッツ短編傑作選』(酒寄進一訳、東京創元社)。ポケット本は長岡弘樹『教場』(小学館文庫)。これは、週刊文春「2013年ミステリーベスト10」国内部門第1位と文庫裏に書いてある。何年も前に話題になり、えっ、なんでそれを今ごろ?みたいな中途半端に昔の本を文庫で(初めて)読むのってすごく楽しい。その当時読まないでいてくれてありがとう、自分。今年もページをめくってどんな新しい景色を見られるんだろう(←とりあえず新しい景色新しい景色言ってみたいだけの人)。

2022年の10冊

『フィールダー』古谷田奈月(集英社
『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』井上荒野朝日新聞出版)
『決壊 上・下』平野啓一郎新潮文庫
『とんこつQ&A』今村夏子(講談社
『捜査線上の夕映え』有栖川有栖文藝春秋
『私のことだま漂流記』山田詠美講談社
『成分表』上田信治(素粒社)
『Nさんの机で ものをめぐる文学的自叙伝』佐伯一麦(田畑書店)
『じゃむパンの日』赤染晶子(palmbooks)
『東京マッハ 俳句を選んで、推して、語り合う』堀本裕樹・千野帽子長嶋有米光一成晶文社


『フィールダー』ソシャゲには興味ないしなとあまり気乗りせずに読み始めたらたちまち引き込まれ一気に最後まで。興奮した。黒岩センセーイ!/『生皮』本書中の性加害者が仲間内に漏らすお言葉「男っていうのはそういうもんですよね。やれそうなら、やる。そうやって人類を増やしてきたんだ」「その通り」(p.182)。公の場で発言したらアウトだろうが、本音はこれに尽きるのでは。/『決壊』山本文緒がエッセイで「親しい人には絶対に勧めない本であり、でも読んだ人と語ってみたい本だった」と熱く語っていたので読んだ。ヘヴィーだった。キャベジン飲んでもまだもたれている。/『とんこつQ&A』メモを読みあげないと接客することができない表題作の主人公が他人とは思えなかった。/『捜査線上の夕映え』ひさびさに読んだ火村英生シリーズ。チェンジ・オブ・ペースを楽しんだ。/『私のことだま漂流記』熱血ポンちゃんの自伝、本になるのを待っていたよ。/『成分表』『Nさんの机で ものをめぐる文学的自叙伝』今年前半毎晩少しずつ読むのを楽しみにしていた2冊。/『じゃむパンの日』まさか赤染晶子さんのエッセイ集を読める日がくるとは。palmbooksさんありがとうございます。/『東京マッハ』もし藤野可織さんの句集が出たら読みたい!


あと津村記久子さんの『やりなおし世界文学』に導かれ、いろいろやりなおさせていただきました。別れた人とはやりなおせなくても、本とならいくらでもやりなおせる。おいしいものを食べて本を読んでいられれば、私はいつも上機嫌です。来年またどんな本に出合えるのか楽しみです。では、良いお年をお迎えください。

仕事納め

朝の電車がガラガラ。ゆったり座って本が読めた。毎日こうだといいのだけれど。ポケット本は高田大介『まほり(下)』。近頃読んでいて一番楽しいのは国産のエンタメ小説で、何周か回ってまた戻ってきた感じ。仕事は半日で終わり。ようやく仕事納め。配られた寿司折や菓子や果物を提げて退勤。午前中の仕事の処理にてこずって時間が下がったのでハラペコで、何か食べて帰ろうかなと考えていたところ、帰り道が一緒になった同僚のNさんとK君からお蕎麦を食べに行かない?と誘われ便乗する。天ぷらそば。おつゆが染みわたる。よいお年をと言い合い解散。その後コーヒーを飲んで帰る。夕食はもらった折詰めの寿司やりんご。帰省の準備。あとは寝るだけとなってイノハラカズエ『松江日乗 古本屋差し入れ日記』(ハーベスト出版)をの~んびり読む。古本屋さんの日記だけど、本の話はちょっとで、お客さんからの差し入れが毎日記される。
例えば2016年12月31日の差し入れ。

イツコさんより、ぎんなんの揚げ菓子。
トノダ氏よりお歳暮とおぼしきハム二種。
ルリコさんからは、あじのお刺身と年越しセット(紅白なます、飾り切りにしたかまぼこ、梅人参があしらわれた煮しめ)。
昨日今日のいただきもので幸せな年越しをする。    (p.47)

日々の差し入れが、西村賢太の日乗の晩酌メニューのようにクセになる。
今年は、古書現世の向井さんの『早稲田古本劇場』(本の雑誌社)を読めたのもめちゃ嬉しかった。こちらは、キャラが濃すぎる、創作したんじゃないかと疑うくらいクセが強い客が次から次へと差し入れられてくるので目が離せなかった。

父と娘

今年最後の平日休み。午前中、昨夜途中までやっていた年賀状を印刷してしまう。このところの忙しさもあり、肩こりがひどくてカッチカチなので、午後からスーパー銭湯に行く。平日の昼間だからか人が少なくて、大きな湯船に手足を伸ばしてゆったり浸かると、疲れが湯に溶け出すようで気持ちいい。極楽じゃ。調子に乗り浸かりすぎてのぼせた。帰り、湯上りの頬にあたる風が冷たくて心地いい。

梯久美子『この父ありて 娘たちの歳月』(文藝春秋)を読んだ。石牟礼道子茨木のり子島尾ミホ田辺聖子辺見じゅんら9人の女性作家たちの父娘関係とその生涯。それぞれの父娘関係があるものだ。
私はといえば、父のことがずっと苦手だった。父が母を、タダで献身的に働く家政婦または女中または召使いのように扱うのを子供のころから見ていたから。家にいるときはなーんにもしないでゴロゴロしていると、自動的に食事が用意され、食べ終わると食器は洗われ、タイミングよく風呂が沸いていて、その辺に脱ぎ散らかした服は次の日には洗濯されきれいに畳まれて目の前に現れる。おまけに子供を産んで育ててくれて、自分の親の介護までしてくれたら、そりゃあいいよなあ、女は損だなと思っていた。今も思っている。でも、世の中には、自分を犠牲にして、夫や子供に尽くすのを生きがいのように思っている(思わされている)方もおられるので、そういう方が、そういうのを求める人と共に暮らせば平和なのでしょうね。昨年読んだ田辺聖子の『十八歳の日の記録』の父親に関する記述がとても辛辣で、だよねだよねー、思春期の娘はそうだよねーと思った。

他に三木那由他『言葉の展望台』、吉川浩満『哲学の門前』、三國万里子『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』を読んだ。

夜、昨日のすき焼きの残りにうどんを入れ、たまごでとじて食べる。2日目のすき焼き最高。
年賀状の裏書。このSNSの時代に、学生時代の友人たちとの一年時差のあるアナログのやりとりが楽しい。

僕の好きな文庫本(21)

池澤夏樹『インパラは転ばない』(新潮文庫

カバー装画・杉田比呂美 解説・松村栄子

杉田比呂美ジャケ本。この夏、マイクル・Z・リューインの翻訳の新刊が刊行され、ミステリマガジンでも特集が組まれた。その際、立て続けに出た三冊すべてのカバー装画が杉田比呂美によるものだった。そうこなくっちゃ。リューインといえば杉田比呂美、というかもうアルバート・サムスン=杉田比呂美。昔愛読していたハヤカワ・ミステリ文庫の〈アルバート・サムスン〉シリーズのカバーはとても洒落ていた。宮部みゆき若竹七海やクレイグ・ライスなど、杉田比呂美のカバーがついていると、それだけでなんだかよいミステリーの匂いがする。

アルバート・サムスン〉シリーズの最初の一冊『A型の女』がポケミスからハヤカワ・ミステリ文庫に入ったのが1991年。本書『インパラは転ばない』が新潮文庫に入ったのが1995年。自分が杉田比呂美ジャケを意識しはじめたごく初期の本かもしれない。池澤夏樹の軽妙なエッセイとの相性もバッチリで、ところどころに杉田比呂美のカットが入っていて、杉田ファンには贅沢な一冊。