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ヨムヨムエブリデイ

選書フェア

今月の休みを消化するため午後半休取らせてもらう。退勤後、友人と落ち合い、昼ごはんを食べに行く。とんかつ食べたいと店に行くも、どこも混んでいて、結局デパ地下でなんか買って公園に行こうということに。私はどうしてもとんかつが頭から離れずヒレかつサンドを、友人は上等ののり弁を、他に焼きたてのアップルパイ、ビール、コーヒーなども買ってぶらぶら歩いて行く。僕のセントラルパーク。気持ちよく晴れたピクニック日和。日本シリーズがある秋のこの時期の気候が一年でいちばん好きだ。先週ぐらいまでは、金木犀のために町中が芳香剤の効きすぎたトイレみたいにムンムンしていたが、それも終わったよう。良い時間をすごし、夕方から用事があるという友人と別れ、本屋、スーパーに寄り帰宅。

新刊を出した作家が、それまで読んで影響をうけた作品や、新刊のテーマにちなんだ作品を選書する、書店の選書コーナーが大好物だ。最近だったら、今野書店の短歌西荻派の枡野浩一、木下龍也、山階基による選書フェアがよかったし、twililightも次から次へと興味深い作家の選書フェアをしてくれる(今は山下紘加と村田沙耶香)。今みたいに新しい情報がどんどん入ってくると、どうしたって新刊ばかりに目が向いてしまいがちだが、選書フェアにより読み逃していた旧作品を手にとる機会が増え、ありがたい。例えば、枡野さんが選んでいた赤瀬川原平『レンズの下の聖徳太子』。

無人島のふたり』、最初は躊躇していたが、一旦読み始めたらやめられず一気に読んだ。山本さん最後までかっこよかった。そのあとに読んだ古谷田奈月『フィールダー』がこれまた面白かった。新米はおいしいし、読む本読む本面白くてとまらない秋。

無人島のふたり

重大発表が重大だったためしがないし、ウチんとこの政府はほんとクーポン好きすぎるし、『科捜研の女 2022』のオフィスが無印良品みたいになってた。

仕事終わり、もしかしてアレでてるかなと、ちょっと足をのばして大きな書店に寄ると、あったあった。山本文緒無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』(新潮社)。一昨年の12月18日にあさイチに生出演されたときは、とてもお元気そう(足を怪我されてたが)で、翌年の10月に亡くなったので、もしかしたらあさイチのときは体調悪くても気丈に振る舞っていたのかなと思っていた。先月角川文庫から刊行された『残されたつぶやき』の年譜に、あさイチ出演の翌年4月に病気が発覚、余命4~6か月の宣告、6月には抗がん剤治療をやめ、自宅での緩和治療に専念、そして10月13日に死去とあった。急だったんだな。『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』は、その年の5月24日から最期までを綴る日記。はじめの数ページ読んだだけで、もうつらくてつらくて進めない。でもがんばって読む、読まなければ、でも読めないの狭間で揺れている。小笠原文雄『なんとめでたいご臨終』を読むと、少し前向きな気分にもなるが、やはりつらいものはつらい。病気が憎い。

だって今夜は土曜日の夜

月曜日が休みだったから今週は一日短いはずなのに体感的にやたら長かった一週間がやっと終わる。
仕事を終え、土曜日の夜の始まり。BTSファンのHさんとSBファンのY氏は、すっ飛んで帰っていった。だらだら買物を楽しみ、だらだら本屋で時間を過ごし、だいたい仕事終わりはだらだらしているのだけれど、土曜の夜はだらだら感に磨きがかかる。洗練されただらだら。

風呂や夕飯をすませ、深更(西村賢太のマネ)、溜まっていた動画をだらだら見る。動画も洗濯物や埃みたいにすぐ溜まる。昨夜の『孤独のグルメ Season10』からの『絶メシロード season2』は、個人的にとても好きな流れ。『孤独のグルメ』のゲストは片桐はいり。これはゲストのクセ強というか、やりすぎ回だった。これまでのやりすぎ回としては、八嶋智人岸谷五朗、かたせ梨乃、室井滋などが印象に残っている。『絶メシロード season2』はもう最終回。これを見ると車中泊やってみたくなる。でも宇佐見りんの『くるまの娘』のような緊迫感のありすぎる車中泊はいやだー。

町田康『湖畔の愛』を読み終える。相変わらずの町田節に時々吹きだす。特に「雨女」が好きだった。えっ、恵子さんどうなっちゃうの?とめちゃハラハラした。他に金原瑞人『翻訳はめぐる』(春陽堂書店)を読んだ。柴田元幸岸本佐知子など訳者から入る本もあるが、ことさら意識せずに読んでいた本が、えっ、あれも?これも?金原瑞人訳だったの?となることが多い。こないだ読んだカミーラ・シャムジー『帰りたい』(白水社)もそうだし、新潮文庫サマセット・モームや、岩波少年文庫のホラー短編集なども。『翻訳はめぐる』は横書きの絵本を縦書きに訳す(その逆も)際の苦労とかいろいろ興味深かった。

セーターを着ると新しい季節の匂いがした。

このタイトルは『ノルウェイの森』から引っ張り出してきた。こういうキメフレーズは脳のヒダヒダの間に深く入り込んでいて、普段は意識しなくても、ふとした拍子に浮かび上がってくる。急に寒くなり、このフレーズと共に、慌てて秋冬物も引っ張り出す。ベージュを基調にした秋の装い、甘さをおさえたきれいめコーデで出勤。

今月に入ってから時に励ましながら伴走してくれていた滝口悠生『水平線』(新潮社)を読み終えル。滝口悠生が会社員時代、仕事の休憩時間に津村記久子の『ウエストウイング』を読んでいたときのことを「本を開けば作品の舞台であるビルの世界にまた行ける、彼らに会える、とこの本を読む毎日が幸福だった。(中略)毎日鞄のなかにその本があると感じて嬉しくなったその重みまで覚えている。」と書いていル。私は、硫黄島や父島や釣り堀にまた行けル、横多くんやくるめちゃんや忍さんや八木皆子さんやイク、達身、重ル、牛のフジなんかにまた会えルと、毎日『水平線』を開くのが楽しみだった。

ありがとう、と私は言ったのだけれど、その感謝は、横にいる秋山くんにだけ向かうのではなく、私がこれまでこんなふうに無力にその場でただ遠くを見ることしかできなかったいろんな場面で、私に手や、声や、食べものや、温かい飲み物を差し出してくれたすべてのひとびとに向けられているんだ、と私は思った。いや、私だけでなくて、私の知る、私の好きなひとの同じような場面で、彼らに手を差し伸べたひとたちにも向けられている。とても多くのひとたちだ。でもいまなら、ここからなら私のどんな声も、そんなひとびとにちゃんと届く。どんな離れたところにも届く。どうしてかわからないけどそう思った。  
『水平線』(p.440)

『水平線』を読んだら、昔読んだ『死んでいない者』を読みたくなり、本棚から文庫本を出してきたら、解説が津村記久子だった。つながっていル。

おれの軍曹

このおにぎり、ツナマヨネーズ忘れてる

月末。10月から健康保険の自己負担割合が増える人々がわらわら駆け込んできて気絶しそうなほど激いそがし。
はあー、昼休みになったら本の続きが読める、仕事が終ったらまた本の続きが読めるぞと目の前にニンジンをちらつかせているうちにやっと終業。疲労困憊で、何か味の濃いものをガツガツ食べたくて、もう終わってるかもと思いつつヨロヨロ行ったらまだやってた月見バーガーのセットを買ってヨロヨロ帰りガツガツ食べた。3番目の短編「おれの軍曹」を読んでいるとき、思わず「バーク軍曹!」と呼びかけずにはいられなかった。この短編、原題は“Soft-Boiled Sergeant”だけれど、もうどうにでもなれって感じで口のまわりを油まみれにしてハンバーガーとポテトをガツガツ貪っている今のおれの気分には「おれの軍曹」がぴったりだった。