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ヨムヨムエブリデイ

新年度

新年度の初週はバタバタだった。いろいろな事が改定されるのだが、現場のことなんて全然知らない人が机上で考えた非効率なシステムに振り回されイヤになる。疲労困憊。やっと明日休み。

朝日新聞の書評委員の交代のお知らせが載っている。女性委員を増やしてやったぜとやたらと強調している。朝日の読書欄で楽しみなのは「文庫この新刊!」のコーナーで、これまでの山田航、堀部篤史、辛島デイヴィッドのバランスがよくて、特に山田航氏の選ぶ文庫にはずいぶんそそられた。文庫だと気軽に買えるし。今回、杉江松恋を含む4氏が退任して、新しく小澤英実、村上貴史、新井見枝香、稲泉連が加わるとある。新井さん楽しみだな。辻山良雄、堀部篤史に続く書店員枠かな。

ノマド 漂流する高齢労働者たち』(春秋社)を読んだ。田中邦衛は「食べる前にのむ!」だが、私は「観る前に読む!」派だ。この間はあわてて『あのこは貴族』を読んだ。しかしいちばん危険なのは「読む前に萎える!」こと。読む気まんまんの本も、帯の文句が気に入らないとか、帯を書いている人が嫌いとか、読む時期を逃したとか、ほんのちょっとしたことですぐ萎える。ちらっと目に入ったアマゾンレビューがけちょんけちょんで、影響されてはいけないと思うも、そんなにつまらないのかーというのがずっと頭の隅っこにあって、結局萎える。萎え萎えの嵐。桜は散り、萎えた本は通り過ぎてゆく。

僕の好きな文庫本(4)

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安西水丸『アマリリス新潮文庫

カバー・安西水丸 解説・清原康正

ムスカリからのアマリリス。昔は、安西水丸といったら、「村上春樹の本のイラストを描く人」という認識しかなかったが、純粋にそのエッセイや小説を愛読するようになったのはいつ頃からだろう。最初の『村上朝日堂』の巻末に、文・安西水丸、画・村上春樹と立場逆転のコラムが付いていたが、それが初めてだったかもしれない。そしてこの『アマリリス』が著者初の小説集。エロくて、エモくて、ちょっとエグい、男の3E小説。90年代に刊行された小説『手のひらのトークン』『冬の電車』『十五歳のボート』『荒れた海辺』『草のなかの線路』『丘の上』などはどれも淡く印象に残っている。
『アマリリス』の担当編集者だった方の追悼文「水丸さん逝く | honya.jp」もよかった。

ムスカリ

年度末ギリギリに午後有休を取る。というか、取得「させていただく」。
退勤後、銀行のATMへ。何台かある機械のうちの一台の前に70代ぐらいの老夫婦がいて、機械を操作している妻の横に監視するように立っている夫が「そうじゃないだろ、バカが、だからお前はダメなんだ」と言い続けている。妻は萎縮し、ますます操作がうまくいかない。月末だからどんどん客が来て長蛇の列。夫が「何やってんだ、このバカが!」と怒鳴り続けていたが、結局その機械が使用中止になってしまった。はぁ、やっぱりね。自分は他の機械で無事出金し店を出たが、なんかイヤなものを見ちゃったなーとずっと気分が悪かった。「ご自分がおやりになったらいかがですか?」と言いたかった(言えない)。

桜は散り始めている。お昼は、天丼を食べる。その後、ぶらぶら本屋や無印で買物。「暮しの手帖」の目利きの本屋さんに聞いてみたに北村さんが登場していた。ほんの数行の近況報告欄に「最近、岡田睦の小説を読んで、ムスカリの鉢植えを買いました」とあり、ふふ、北村さんらしくていいなあと思う。

ちょっと疲れたので、コーヒーとチーズケーキで休憩しながら読書。藤原無雨『水と礫』を読み終える。甲一さ~ん。先日読んだ温又柔『魯肉飯のさえずり』(雪穂さ~ん、桃嘉~)、西崎憲『ヘディングはおもに頭で』(微熱少年のおんく~ん)もとてもよかった。ものまね番組の審査員のように、そっくりでも全然似ていなくてもとにかく10点を付ける人と思われるかもしれないが、ほんと読む本読む本どれもいいんですよ。10点10点10点10点!

夜、ハシビロコウが表紙の岡田睦の本を読み返していたら、自分もムスカリを欲しくなってしまった。「これの世話、手がかかりますか」「ううン、一日置きに水を遣るだけでいいの。下にトレイを敷いて」

僕の好きな文庫本(3)

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安野モヨコ『くいいじ』文春文庫

装幀・大久保明子 装画・上楽藍 解説なし

上下二分冊、函入り、精興社書体のゴージャスなルックスの親本が合本し、文庫一冊にコンパクトにまとめられた。文章はもちろん、本文イラストを眺めているだけでも楽しめる。裏表紙に記載されている定価は590円+税。このチープ感が文庫本の醍醐味。文庫冥利に尽きる一冊。井之頭五郎なら、「そうそう、こういうのでいいんですよ、こういうので」と満足顔で言うと思う。

自伝的

緊急事態宣言が解除されたが、日々の生活に特に変化はない。職場は、年度末でバタバタしているが、毎年この時期に催されるめんどくさい歓送迎会の類がない、あるいは縮小され、個人的には喜んでいる。

中野翠『コラムニストになりたかった』と群ようこ『この先には、何がある?』を読んだ。2冊とも自伝的エッセイ。チルドレンの頃は両人の熱心な愛読者で、年末に刊行される中野翠のコラム集を毎年風物詩のように楽しみにしていたが、いつの頃から離れていってしまった。群ようこも近頃読んだのは、漢方薬と片づけのエッセイ集ぐらい。でもこの自伝的エッセイとか自伝的小説は大好物なので食指が動いた。いろいろ興味深く、ミーハー欲が満たされる。

ここ何年かでは、島田マゾ彦君の『君が異端だった頃』、馳星周ゴールデン街コーリング』、中森明夫『青い秋』、山口ミルコ『バブル』などが印象に残っている。生島治郎『浪漫疾風録』シリーズや、常盤新平『片隅の人たち』も文庫復刊を機に楽しく再読した。自伝的小説になると、実在のモデルの名前が微妙に変えられていたりして、それを特定しながら読むのも楽しい。『青い秋』はその変え方が微妙過ぎて可笑しかった。70、80年代の文芸関係の自伝には、たいてい中上健次が顔を出している気がする。

桜は、過去もっとも早い満開だそうだが、通勤途中の桜はまだほころびかけ。咲き急がないで、もっとゆっくり咲いてほしい。