小話臭味

日曜日。目覚ましをかけずに、ゆっくり起きて、ハムとチーズのホットサンドを作り、マグカップになみなみのカフェオレとともに食べる。このところ、サウナと水風呂の日が交互に訪れたような気温差だったが、今日は水風呂の日だ。
カフェオレを啜りつつ、共通テストの国語の問題を読んでみる。加能作次郎「羽織と時計」。『世の中へ・乳の匂い』(講談社文芸文庫)にも収録されている。面白い。W君からもらった羽織と時計をめぐり、語り手の「私」がああでもないこうでもないとウダウダくよくよ思い悩み、結局何の行動もできないところなんて、他人事とは思えない。穂村弘のエッセイでも読んでいるようだ。しかし、その後の設問に、当時新聞紙上に掲載された宮島新三郎の書評が引かれていて、忠実なる生活の再現者として加能氏を尊敬しているのであって、この作品は「小話臭味の多過ぎた嫌いがある」とばっさり斬られている。そっかあ、私は、本来、加能作次郎の作風ではない小話臭味に反応して面白がっていたのかー。

土曜日にtoi booksのチャンネルで行われた「滝口悠生、大滝瓶太のゆるゆる話」で、書けなくなった時、落ち込んだ時、ネガティブな気持ちになった時に、どんな本を読みますか?と訊かれた滝口悠生が、特に決まっていないが、その時読みたい本を読む、どんな暗い小説だろうと、読むというのは、いい方に、希望的な方に進む作業だと思っている、と言っていたのが印象に残っている。
「羽織と時計」を読んで、たとえ的外れでも、面白かった!と思っただけで、いい日曜日だと思える。

冬のポケット

緊急事態宣言が出され、どこどこの人出は前に比べて何十%減少したと、過去の映像と現在の映像を並べて報じられているが、通勤時に人が減ったという印象は個人的にはない。寒い朝。天気予報は真冬並みの寒さでしょうと言っていたが、真冬って今じゃないの? 検索すると、同じことを考える人が多いようで、「大寒(1月20日頃)から立春(2月4日頃)までが真冬です」だそう。常識なのか。

しかし冬はコートを着用できるのがうれしい(韓国映画やドラマは、いいコートのオンパレード)。今着ている紺色のゆったりとしたコートは、外に付いている四角いポケットに文庫本がすっぽり入るのがいい。椎名誠がエッセイに、マウンテンパーカーのポケットに文庫本をサッと入れて、なんて書いてあるのを読んで羨ましく思っていたが、自分のワードローブで文庫本が余裕をもってすっぽり収まるのは冬のコートぐらい。今日のポケットには多和田葉子犬婿入り』(講談社文庫)を入れている。

都甲幸治『「街小説」読みくらべ』(立東舎)に、「犬婿入り」は国立の南側を舞台にしているとあり、そうだったっけ、大昔に読んでうろ覚えだったから、読み返してみたいなと思っていたら、この前の休日に買い物した帰り、古本屋の均一にこの文庫を見つけ、わおっ、渡りに船だ!と即購入。そのままコートのポケットに収まった。古本屋の店先やブックオフに転がっている100円のラッキーな出合い。こういうのが一番うれしい。まず収録作の「ペルソナ」を読み、今のマスクの安心感についてちょっと考えた。

先日の本特集のBRUTUSで、壁に寄りかかっている多和田葉子が着ていたコートのポケットには、文庫本がガッツリ入りそうだった。暖かくなったら、『犬婿入り』を持って、国立から谷保あたりを歩いてみたいけど、暖かいとコートはいらないね。

仕事始め

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朝礼

冬晴れ。朝の空気が冷たく澄んでいる。月曜日から仕事始めって、今年のカレンダーは容赦ないな。正月の暴食のせいで体が重たい。

チーム長からお年玉が配られる。やったー。今年も貰えるといいねと皆で話していた。ポチ袋に2021円。この2千円という金額がなんかいい。単行本を1冊か文庫本を2冊買い、帰りにコーヒーを1杯飲めるし、映画なら1本見られる。端数が28円とか29円になったら準備するのがめんどくさくて中止になりそうだが。
朝礼で今年の目標を言わされる。例年通り、ねじ式の人のポーズで今年もごにょごにょ……とお茶を濁して終わるが、腹の中では、「今年こそ、仕事着をカッコよく羽織れるようになりたい!」と考えている。私服の上に羽織るタイプの仕事着なのだが、『幕末太陽傳』のフランキー堺のように、空中に放り投げた羽織に、両腕をスルッと通す粋な着方に憧れている。でもこれが難しくて、毎日やっていてもなかなかうまくいかない。今年はマスターするぞ。金麦の人もやっていたこれ。

お昼にはなぜか助六寿司が配給される。巻き寿司、いなりを交互につまみながらの初昼読は、『サンキュータツオ随筆集 これやこの』(KADOKAWA)。食後に萩の月しょっぱなから残業で遅くなったので、帰りに寄り道してお年玉を散財できず残念。まあ、今週は先が長いので楽しみはとっておこう。

2020年の10冊

(目利きではない人が選ぶ)2020年の10冊 順不同

『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ(友廣純訳、早川書房
『誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ』イ・ギホ(斎藤真理子訳、亜紀書房
『わたしに無害なひと』チェ・ウニョン(古川綾子訳、亜紀書房
『優しい暴力の時代』チョン・イヒョン(斎藤真理子訳、河出書房新社
『今も未来も変わらない』長嶋有中央公論新社
『盆土産と十七の短篇』三浦哲郎(中公文庫)
『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』滝口悠生(NUMABOOKS)
『パリの砂漠、東京の蜃気楼』金原ひとみホーム社
『道行きや』伊藤比呂美(新潮社)
『死ぬまでに行きたい海』岸本佐知子スイッチ・パブリッシング


『ザリガニの鳴くところ』本の雑誌によると、ザリガニ派とリズ・ムーアの『果てしなき輝きの果てに』派に分かれるそうですが、私は断然ザリガニ派。「全米500万部突破2019年アメリカで一番売れた本」という帯の文句に萎えずに読んでよかったです。/今年は韓国(文学、映画、ドラマ)にどハマりしました。なかでもイ・ギホが一等お気に入り。/『今も未来も変わらない』を読んでいる間ずーっと楽しかった。車を運転中に駐車場が近づくと自分も「空か満か、クウカマンカ」と唱えています。/三浦哲郎再発見の年でもありました。その勢いで『完本 短篇集モザイク』を入手したので、来年読むのが楽しみ。ちびちび読もう。/たくさんありすぎる好きなエッセイ集から、なんとか4冊に絞りました。『パリの砂漠、東京の蜃気楼』は夏の猛暑と中身の濃密さで頭がクラクラしたのを覚えています。金原ひとみの小説を再び手にするきっかけにもなりました。こんなふうに他のも読みたい!と思わせられる本は自分にとっていい本です。


■今年も愉快に本を読めました。ギラついた野望とか、ほとばしる情熱とかとは無縁で、食べたいものをおいしく食べて、のんびり本を読む穏やかな日々を過ごせればそれだけで幸せなので、個人の生活レベルでは今のところコロナの影響をあまり受けていないようです。ありがたいことです。来年も楽しく本を読めますように。こんな時代遅れの限界集落のブログに来てくださりありがとうございました。

年末

毎年30日が仕事納めだが、今年は29日まで。明日出れば5日間の休み。
リモートワークになるわけでもなく、これまでと変わらずずっと毎日同じ時間に出勤して働いていたので、今年が特別な年だという気は全然しない。ただ、春頃に、書店や図書館が閉まっていたときは、かなり参った。家の積読本が片付いていいじゃないとか、ネットで買えばいいじゃないとも思うのだが、仕事終わりにふらりと書店に寄り、雑誌を見たり、新刊コーナーを冷やかしたり、背表紙を眺めたりする時間にどれだけ助けられていたか改めて知った。

昼休み、銀行のATMはものすごい人。夕飯は昨夜の残りのおでん。味がしみしみでおいしい。酒飲みの友人は、おでんは飯のおかずにならないと文句を言うが、しょっぱい味が付いていれば、焼きそばもお好み焼きも何でもおかずになる。
この間の日曜日に、年賀状を済ませてしまったので、あとはもうこたつでぐだぐだ読書とドラマ三昧だ。堪えられんな。TVerの「孤独のグルメ」と「ワカコ酒」の傑作選まで見てしまう。もう何度目かなので、どちらも前半の仕事パートはすっ飛ばして。日々の仕事もすっ飛ばしたい。

今年の3冊的なものが出揃ってきたが、旬の本の羅列ばかりを見ていると、文學界の「文學界書店」のような「今年の」ではない選書特集を新鮮に感じる。桐野夏生の『日没』をひゃあ怖かったーと読み終え、桐野夏生の未読のやつをもっと読みたいぞと思っていたところ、この特集に、『メタボラ』は数多い桐野夏生作品の中でも特筆すべき傑作と紹介されていて、次はこれだ!と決める。あと高城晶平の選書がイカしてる。休みに読む本を選ぶのすんごい楽しい。小確幸。いや中確幸くらい。