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ヨムヨムエブリデイ

散髪

朝、カーテン越しに差し込んでくる光の角度と明るさがすっかり春って感じで油断して外に出ると風が冷たくて、思わずひゃーと声が出る。ここのところ続いていた雨が上がり、雲ひとつない濃いブルーの空。
午後から半休を取る。今月いっぱいで本年度の有給休暇がチャラになってしまうので、とりあえず半日でも入れられそうなところにはガンガンぶっこんで消化していく方針。退勤後、日替わりランチ(チキンカツ)を食べてから、15時に予約を入れていた美容院で髪を切る。髪が伸びるのに比例して、病み感と闇感もぐんぐん増してくるようで、いつもと変わらないのに「疲れてる?」とか「体調悪いの?」とか言われるようになったらそろそろ髪を切る時期だなとわかる。かといって髪を切ってさっぱりしたところで、「なんかエネルギーが満ち溢れてるよね」とか「やる気がほとばしってるね」などと言われることは皆無なので、マイナスがゼロに近づくことはあっても、プラスになることはないんだなと思う。まあプラスにはならなくても切った髪の分だけ気持ちも軽くなり、頭を振ると自分の家とは違うシャンプーのいい匂いがして上機嫌で本屋などをふらふらめぐりながら帰る。空はまだ明るくて、夕焼けのグラデーションがきれいだった。

最近読んだ本。呉明益『自転車泥棒』(文藝春秋)はじめは、行方不明になった父と自転車を探すのにそのエピソードいる?と思いながら読んでいたが、読み終えるとそれはいるわな、というか、いる・いらないの話ではないなと思った。王谷晶『完璧じゃない、あたしたち』(ポプラ社)面白かった! 吉村萬壱『前世は兎』(集英社)ヌッセン総合カタログ! エッセイ枠は錦見映理子『めくるめく短歌たち』(書肆侃侃房)。

予想外の出来事

今週は、というかほとんどそうなのだが、次から次へとイレギュラーな問題が発生し週半ばにしてすでにクタクタ。明日は休みを取った。
今読んでいるコニー・ウィリス『クロストーク』のエピグラフに、
アイルランドでは、必然的な出来事はけっして起こらず、予想外の出来事はつねに起こる」
                          ―ジョン・ペントランド・マハフィ
と記されていて、このジョンなんちゃらという人がどういう人か知らない(調べる気力もない)が、ほんとそれ!アイルランドだけじゃないよジョン!って激しく同意する。そしてげっそり疲れた帰りに寄ったスーパーのレジはかなりの行列で、やっと次の順番になりホッとしたところ、前に並んでいた年配の女性が「それ、広告に載っていた値段と違う、高い!」と言いだして、レジの人がマイクで値段確認の応援を頼み、作業がストップしてしまう。マージーかあああ、ジョン~、もう何もかもがどうでもよくなってきて、かえって清々しい気持ちになる。『クロストーク』のブリディに比べればこんなのちょろいもんだ。明日休みだし。

電車では本の続きを読む気分にならず、ざっと見てカバンに入れたままだった「みすず」の読書アンケート号を書類の間から引っ張り出してパラパラする。このアンケート号は、毎年2月の初旬に刊行され、ああ今年も出たな、大トリの登場で2018年がやっと終わるなと入手したときが最高に盛り上がっている気がする。いざ読み始めると、こんなはずではなかった、というか、そうそうこんなかんじだったというか。20%くらいしか楽しめていない。と毎年懲りずに同じことを考えている。

はるみときよみ

昼間は晴れて暖かかったが夜には雨。仕事はやや落ち着いてきた感あり。昼休みに同僚が「はるみ」が来たー!と騒いでいるので、えっ、はるみって誰?ボスの愛人?スナックのママさんかなんか?と思っていたら、みかんのはるみがどこかから届いたということらしかった。ひとり3個ずつ配給されてさっそく1個剥いて食べる。甘くて香りがよくておいしい。春の香り。

Webでも考える人の小山田浩子の「小さい午餐」が更新されていたので、ヤッホーと読み始める。今回はラーメン屋でラーメンを食べたってだけの話が、例によって改行少なくみっちり書き込まれていて、これが面白い。いろいろ複雑な注文を済ませたあと、岩波文庫の『失われた時を求めて 5 ゲルマントのほうI』を読みながら待つところなんか、ラーメン屋でプルースト!って思うのだけど、そのあとに「なんとなく場違いなような気がするがこの本が場違いでない場所だと私自身が場違いな気がする」と書くところとか、「ありがとうございました、ましたー、マシターァ」が何度も出てくるところとかよかったな。

特に猫好きというわけではないのだが、この数日間に放送された、ネコメンタリーの村山由佳養老孟司、岸政彦編をまとめて見て思っていた以上にグッときてしまった。岸政彦編のバックに流れていたマーラー5番が耳に残っていて、ずっと聞いている。

たい焼き

今週もやっと一週間が終わる。月曜が祝日だったので一日短かったはずなのだが、すんごく長かった。
昼はボスのもらったチョコ(同僚が値段サーチ済)をつまんだだけだったので、退勤後は低血糖でふらふら。とりあえずたい焼きとコンビニのコーヒーを買いベンチに腰かけて食べる。皮はパリパリ、しっぽの先までぎっしり詰まったあんがホクホクしてうまい。ひよ子饅頭や鳩サブレなどの生き物系のお菓子は頭から食べるとかわいそうでおしりから食べるのだが、たい焼きはなぜか頭からいっちゃう。ようやく人心地が付いたところで、昨日読み終えてカバンに入れたままだったハン・ガン『すべての、白いものたちの』(河出書房新社)のいいところをパラパラ反芻しながら帰る。白いものがちらついためちゃくちゃ寒い日にこの本を読んでいたことは忘れないだろうなと思った。原研哉『白百』(中央公論新社)と並べたい。スーパーで食料を買い帰宅後、録画していた村山由佳のネコメンタリーを見つつ夕食。来週の「岸政彦とおはぎ」が楽しみだ。

トゥラッタッタ

土曜日は仕事、昨日は友人と会った。今日はもう何があっても家から出んぞ。
今期の朝ドラを見始めて5か月近くたつのに未だに主題歌の「もらい泣き」と「あなたとラッタッタ」ぐらいしか聞き取れない。日本語がわからない人には、日本語はどのような音の響きで聞こえるのだろうというのが謎で、でも自分は意味がわかっちゃうから日本語がわからない人の耳になることができない。この歌を聴いているとその耳を体験できるので、字幕表示にすれば一発で歌詞はわかるのだろうが、あえてそうしない。わからなさを楽しんでいる。一度自転車に乗れたら、乗れないときには戻れない。
窓の外は鉛色の空。時折、雪がちらつく。こたつにもぐって、『ある男』(文藝春秋)を読んだ。平野啓一郎にはちょっと苦手意識があるのだけど、面白かった。あと佐伯一麦『麦の日記帖』(プレスアート)も。冷凍うどんで具だくさんの鍋焼きうどんを作る。ここのところ何かに追いまくられているような毎日だったから、あたたかい部屋で、本を読んで、食べたいものを食べて、ゴロゴロして幸福な一日だな、と思った。

幸福は抵抗をやめた降伏の甘い敗北抜かれたる牙  九螺ささら(『神様の住所』より)

何に降伏したのかはわからないのだけれども、降伏感はいつも感じていて、だから幸福なのかもしれないね。